名古屋地方裁判所 平成5年(行ウ)52号 判決 1994年10月28日
愛知県愛知郡日進町大字浅田字平子四-三五四
原告
夏目正
名古屋市中村区太閤三丁目四番一号
被告
名古屋中村税務署長 中嶋一夫
右指定代理人
加藤裕
同右
佐々木博美
同右
井口眞治
同右
木村晃英
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告の昭和六一年分の所得税につき被告が昭和六二年七月九日付けでした更正処分が無効であることを確認する。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同趣旨
第二当事者の主張
一 原告の主張
1 被告は、原告の昭和六一年分の所得税につき、昭和六二年七月九日付けで所得税総所得金額を一億六〇二〇万六四六三円とする更正処分(以下「本件処分」という。)を行った。
2 しかしながら、本件処分には、以下のとおり、重大かつ明白な違法事由がある。
(一) 原告は、昭和六一年中に、訴外中村不動産に対し、同年一月一日より前から所有していた瀬戸市西山町二丁目一九番外一〇筆(瀬戸市西山町二丁目二一番二、同二〇番七、同一四番二、同一八番、同二一番三、同一三番二、同二〇番一、同一七番一、同一六番、同一五番)の土地を売却した。
しかしながら、被告は、本件処分に当たり、右売却代金を原告の事業収入金額に算入しながら、事業所得の計算上一五番の土地のみを期首商品棚卸高とし、それ以外の一〇筆の土地については期首商品棚卸高として計上しなかった。
(二) 仮に、一五番以外の一〇筆の土地を期首商品棚卸高として計上しないのであれば、それは棚卸資産ではなく、固定資産であるから、その売買代金は譲渡所得金額に算入されるべきものであって、事業所得金額に算入されるべきものではない。
しかるに、被告は、これを事業所得金額に算入した上、本件処分を行った。
3 よって、原告は、本件処分が無効であることの確認を求める。
二 原告の主張に対する被告の認否
第1項の事実は、認める。
三 被告の主張
1(一) 原告の昭和六一年分の所得税については、平成元年一二月二七日付けで昭和六一年分の総所得金額を二億〇四一九万〇五六七円、土地の譲渡等に係る事業所得金額を五五九万九二八五円とする増額再更正処分がされた。
(二) したがって、本件処分の無効確認を求める本件訴えは、訴えの利益がない。
2 原告は、名古屋地方裁判所昭和六三年(行ウ)第四二号事件において、右増額再更正処分を一部取り消す旨の判決を受け、同判決は、原告からの控訴棄却(平成四年九月二四日判決)、上告棄却(平成五年二月二五日判決)により、確定している。
したがって、原告は、右増額更正処分の取消しを求める訴訟において処分の適法性を争った以上、同一年分の課税処分について、改めてその無効確認を求める利益を有していないというべきである。
また、同一年分の課税処分の無効確認を求める本件訴えは、前訴判決の既判力にも触れ、不適法である。
3 原告は、本件処分について、平成五年七月二日、名古屋地方裁判所に所得税更正処分無効確認請求事件(名古屋地方裁判所平成五年(行ウ)第三〇号)を提起して、平成六年三月二八日に訴え却下の判決を受け、同年五月六日、名古屋高等裁判所に控訴して、現在係争中である。
したがって、本件訴えは、二重起訴に当たり、不適法である。
理由
一 被告が、原告の昭和六一年分の所得税につき、昭和六二年七月九日付けで本件処分をしたことは当事者間に争いがないが、証拠(乙一、二)によると、被告は、本件処分の後である平成元年一二月二七日、さらに右所得税を増額する旨の再更正処分をしたことが認められる。
したがって、本件処分は、その増額再更正処分に吸収されて消滅しているから、その無効確認を求める本件訴えには、訴えの利益はない(最高裁昭和五五年一一月二〇日第一小法廷判決・裁判集民一三一号一三五頁参照)。
また、原告は、本件処分について、平成五年七月二日、名古屋地方裁判所に、その無効確認を求める訴え(平成五年(行ウ)第三〇号)を提起して、平成六年三月二八日に訴え却下の判決を受けたが、名古屋高等裁判所に控訴して現在係争中である(乙六、弁論の全趣旨)から、それと同一内容の本件訴訟(平成五年一〇月二七日訴え提起)は、二重起訴に当たり不適法である。
二 よって、本件訴えは、不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 田澤剛)